「グザヴィエ」
「グザヴィエ」
さて、あなたはこの言葉を聞いて何を連想しますか?
この言葉を聞いてすぐに「スパニッシュ・アパートメント」が頭に浮かんだ人はおそらく1000人に1人くらいでしょう。いや、それよりも少ないか。
グザヴィエとは、今回紹介する映画「スパニッシュ・アパートメント」に出てくる主人公の名前で、フランスではよくある名前なのかどうかは全くもって謎ですが、ぼくはドスの利いている割になんだか甘美な香りを醸し出すこの名前の響きがすごく好きなのです。
この不思議な魅力を放つ名前の青年が主人公の映画「スパニッシュ・アパートメント」。
映画について語るのはこのブログでは初めてかと思いますが、好きすぎて止まらないので書きます。
目次
映画「スパニッシュ・アパートメントとは」とは?
タイトル
スパニッシュ・アパートメント
原題
L’auberge Espagnole
監督
セドリック・クラピッシュ
キャスト
ロマン・デュリス
ジュディット・ゴドレーシュ
オドレイ・トトゥ
ストーリー
パリで暮らすグザヴィエは、卒業を来年に控えた大学生。彼の悩みは目下、就職。かつては作家に憧れていた彼だったが、現実はそうも行かなく、バルセロナへの1年間の留学を決意する。国籍も性別もバラバラの6人の学生が暮らすアパートでの同居生活を始める。そして、さまざまな文化が奇妙に調和するこの混沌としたアパートで、グザヴィエは初めて本当の人生に向け “離陸” する…。 出典:Amazon | スパニッシュ・アパートメント [DVD] | 映画
フランス映画が好きすぎる
この映画は、数年前にTSUTUYAで初めて借りてから、なんだかんだでもう5回くらいは観ている気がします。それだけ好きな映画。
「最強のふたり」というフランス映画をご存じの人は多いと思いますが、ぼくはこの映画のシックでブラックジョークに溢れたザ・フランス映画な雰囲気にハマりました。
そして、「スパニッシュ・アパートメント」もフランス映画の良さを全面に押し出していると言えます。
留学生活の酸いも甘いもこれを見れば分かる
あらすじは主人公のグザヴィエがスペイン・バルセロナへ留学し、そこでヨーロッパの他の国々の学生たちとひとつ屋根の下で共同生活を送るという至極分かりやすい青春ストーリーになっています。
たぶん大学生の時にこの映画を観ていたら、間違いなくスペインへ留学していたであろうと思わせるくらいに若者のこころを惹きつける映画。
この映画の何が一番ぼくのこころを掴んだのか考えてみたのですが、それは大学生の時に自分が成し遂げることのできなかった留学先での学生同士の共同生活という、その雰囲気にたまらなく嫉妬してしまったのだと思います。
ぼくは大学4年生の時に休学してカナダに半年間だけ語学留学をしていますが、語学留学と交換留学とではやはり全く違います。
他の国の人たちと共同生活をしながら、勉学や恋や人生について考える。想像しただけでワクワクが止まりません。
そんなワクワクを感じていたのは留学当初のグザヴィエも同じでした。
住む場所を探していたグザヴィエは、イタリア人、ドイツ人、デンマーク人、イギリス人、スペイン人が一緒に共同生活を送る家で、彼らの面接を受けることになります。(一緒に暮らす人はやはり自分たちで納得して選びたいとの彼らなりの考えによって)
ここで、グザヴィエへの質問を巡ってしょうもなく小さな言い合いが始まるのですが、そこで彼は「こんなのを待っていたんだ、完璧な場所だ」と感じるわけです。
これね、ぼくも全く同じことを感じたんです。
こういう雰囲気の、ちょっとぐちゃっとして、アットホームで、たまにうざったくて、いろいろと学ぶことの多い人たちとひとつ屋根の下で暮らしたかった。
これは、学生時代に忘れてきてしまった夢であり、今でもふと考えてしまう夢。そんなぼくの気持ちを知ってか知らずか、これでもかと留学における共同生活の何たるかを見せつけてくるのです、この映画は。
冒頭でも言いましたが、大学生で「留学したいなー」という気持ちが少しでもある人は、この映画を観たら間違いなく留学への気持ちが一気に膨らみます。
エラスムス計画という素晴らしすぎる留学制度について知ってた?
ここで留学について。
主人公のグザヴィエはエラスムス計画という留学制度を利用してスペインに1年間交換留学をしたのですが、このエラスムスについて全く知らなかったぼくですが、少し調べてみたところものすごく学生目線で素晴らしいもののようです。
劇中でグザヴィエが利用する交換留学生制度がエラスムス計画だ。この制度はヨーロッパの大学の結束と人物交流を促進するため、欧州委員会によって、1987年に開始された。当初は3,000人程度の学生しか利用者がいなかったが、現在は100万人以上の学生がこの計画に参加しており、欧州連合のプロジェクトの中でも特に大きな成功例のひとつと見られている。なお、この映画がヨーロッパで公開された翌年、その利用者数は2倍近くに跳ね上がったんだとか。
なお、“エラスムス”とは、16世紀の偉大な人文学者。ルネサンスの先駆的思想家として知られる人物で、ヨーロッパを旅してまわり、進歩的な思想を説いてまわった。彼の代表作は1511年に発表した『愚神礼賛』であり、政界と教会の権力者たちを批判し、人間の空しさを風刺して、愛と思いやりのさらなる必要性を説いた。
実際にエストニアに留学していた日本人の方によれば、EU圏内の大学に在籍しているならば外国人でも利用できる制度のようです。全くもってふつうの日本人には関係のない話だと思いますが、こんな制度が存在することすら知らなかったぼくとしては、ものすごく勉強になりました。
参考:エラスムスって使ったことある日本人いるの? – xarsh
同時に、やはりヨーロッパという異なる文化が隣接している地域への憧れや嫉妬心をさらに感じました。ぼくも異なる価値観の中での刺激的な生活を送ってみたいという願望がたまらないほど強くなりました。
3ヶ国語での自然なコミュニケーション
フランス映画なのにもかかわらず、スペイン語、英語が頻繁に話されて、もはやどこの国の映画か忘れるくらいに言語のカオス感を味わうことができるのもこの映画の魅力です。
幸いなことにぼくは英語、スペイン語をすでに理解することができるので、その点もこの映画を存分に楽しめた理由のひとつになるのかもしれません。
ちなみにフランス語も最近勉強中なので、あの「ウーウー」言う感じの発音に癒しすら感じながら、字幕も見ながらフランス語もちょいちょい理解できているのがたまらなく気持ち良かったです。
言語オタク、海外大好きな人にとっては、この映画はかなり理想的なものになっている気がします。こういう映画を求めている人多いけど、意外にしっくりくるのは今まで見たことない気がする。
多文化が共生するヨーロッパでは、3つの言語での映画製作もそこまで不慣れなことにはならないのかもしれないれど、ここ日本ではそもそもヨーロッパの映画といってもイギリス映画をたまに観るくらいで、有名なもの以外はほとんど入ってくることさえないですよね。
グエル公園、サグラダ・ファミリア、バルセロナの美しさが描かれる
そして、映画の舞台がバルセロナということで、グエル公園やサグラダ・ファミリアのシーンもしっかりとありますよ。ぼくは6年前に1週間ほどバルセロナに滞在しましたが、何が良いって街の雰囲気なんですね。
人々の雰囲気、街全体のワイワイした感じ、天候。バルセロナには海だってある。
ぼくはあの時海辺へ行かなかったのだと、この映画でグザヴィエが何度か足を運ぶ美しい海沿いシーサイドエリアを観ながら、ふと思い出しました。
いつだって若者の恋愛は自分勝手だ
若者の向こう見ずで曖昧で自分勝手な恋愛もこの映画ではこれでもかと描かれています。
主人公のグザヴィエはパリに残してきた彼女のマルティーヌとの関係を継続しようと振る舞いながらも、どこか新たな恋を常に本能的に探している感じ。
ふわっと浮気をしてしまうものだから、もはやそれが倫理的に悪いということさえ忘れてしまうくらいな描き方がされている。
そして、他の登場人物も同様に気軽な恋愛(というか恋愛ごっこ)を楽しんでいるので、もはや若者の恋愛とカテゴライズしてこの映画での彼らの恋愛模様を語ったらまずいことになるぞという気にすらなります。
ただ感じたのは、なぜだかわからないけれどそうなってしまうという不安定な感情、それこそがある意味で若者の恋愛だと個人的にはすごく感じるので、その甘酸っぱさは十二分にこの映画で味わうことができます。
アメリ!!!
そして、先ほどの写真で気づいた人も多いと思いますが、グザヴィエの彼女マルティーヌを演じたのはあの大ヒット作「アメリ」に出演したオドレイ・トトゥなんです。
アメリといえば世界的に超有名な作品で、フランスでの興行収入は「最強のふたり」に抜かれるまで、2001年の公開からずっと1位を守り抜いていたとのこと。うん、すごい。
ぼくが何より驚いたのは、彼女が「アメリ」に出演して一躍時の人になったのが2001年で、本作「スパニッシュ・アパートメント」に出演したのが2004年だということ。
ということは、すでに超有名女優である彼女が、何ともモテなさそうな性格の野暮ったい女性を演じていたのです。さすが女優、全くもって大物感を見せていない素晴らしい演技だと感じました。
パッとしない主人公グザヴィエにハマってしまう
ここまでいろいろ大絶賛してきましたが、若者がこの映画を気に入るであろう最たる理由は、やはり主人公のグザヴィエの考えがまさに青春野郎すぎるところかなと。
人生を語り、自分の人生をアートの一部だとして描きたがっていることがものすごく伝わってくるのです。だから時に苛立つし、寂しがるし、とにかくこころが全くもって安定しないのです。
でも、こんな経験は誰にでもあって、ハッピーエンドとバッドエンドだけが人生ではなくて、映画の醍醐味はこの曖昧な世界観や感覚を映像やことばや音楽で伝えるということにある。
だから、不安定なグザヴィエにものすごく惹きつけられてしまうし、何だか自分自身が彼と一緒にストーリーを歩いているような気になるのです。
感情的で、いつも悩んでいて、掴みどころのないグザヴィエの生き様にいつの間にか完全にハマってしまうんですね。
ラストは次回作への伏線である
そして、物語のラスト。
ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが。彼は自分の力を信じて生きていくことを決めます。
ここだけはちょっとばかりありきたりな展開になっているかとも思いますが、これが次回作への伏線であったのだと考えればそれも納得できます。
まさに主人公のキャラクター設定がこの映画のすべてでした。自分を理解できない、自分を信じることができない、自分って?と日々悩む人たちは、この映画のどこかで共感できることもあるのかなと。
愛すべきグザヴィエ。愛すべき仲間たち。また、近々借りて観てしまうんだろうな。
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