酔っ払いのキューバ人が広島原爆の日を思い出させてくれた

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はじめて見たキューバという国はあまりにも強烈で正直なところ頭の中で全く咀嚼できなかった。旅をして、写真を撮り、何より知りたい欲求がとにかく強かった。今まで20カ国ほどの国々を訪れたぼくだったけどキューバという国はあまりにも違いすぎた。とにかく何かも。

ぼくはキューバという国の在り方を知りたいと思った。だから出逢う人たちから何とかして「キューバの社会主義について」とか「キューバとアメリカの関係性について」の意見や考えを引き出そうとした。

今考えれば土足で入り込むような態度に自分でも辟易してしまう。あの時にイライラせずにぼくと会話を続けてくれたキューバ人には本当に頭が下がる。彼らからしてみればただのチノ(アジア人)であるぼくにいろいろな話をしてくれた。

むこうで暮らす中で気づいたことだけど、キューバという国では基本的には政府の批判をすることが許されていない。タイほどではないにせよ、おそらく公に知られると問題にはなるのだろう。(タイは国王の愛犬に対するジョークをFacebookに投稿しただけで何十年も牢屋の中という国だ)

それなら政府の人たちが見ていないところなら問題はないのだろうか。これもはっきりとは教えてくれなかったが、政府とパイプを持つ市民がいてその人たちに聞かれてしまうといろいろと厄介なことになるらしい。

これらは全て出会った何人かのキューバ人に聞いた話なので、実際のところはよく分からない。法律で決まっているのかさえ謎だ。こういうトピックを外国人であるぼくとしている時点であまりよろしくないことは確かだけど。

そんな風にキューバ人とよく議論をしていたぼくが今でも忘れないのがマレコンでのおっちゃんとの出会いだ。

昼間から酔っ払ってるキューバ人に話しかけられる

マレコンというのは、ハバナ旧市街からミラマールの手前まで続く海岸沿いのことで、朝から夜中までいつ行ってもキューバ人がたむろしている場所だ。何があるというわけではないけど、テトラポットのようなところに座ってただただ仲間と語り合ったり歌いあったりしている。そこでぼくは酔っ払いのキューバ人のおっちゃんと出会った。

人見知りという言葉なんてキューバという国では必要ないのではないかと思うくらいに、キューバ人はいつでもすぐに声をかけてくる。(ちなみに人見知りはスペイン語で男性の場合 timido, 女性の場合 timidaという)

「おいチノ(アジア人の呼称)、何してるんだ?」
「特に何にもしてないよ、おっちゃんは何してるの?」

「これだよ」

そう言いながらぼくに見せてきたのは紙パックのラム酒だった。日本で言うところのワンカップ大関みたいな位置づけなのだろうか。見せてもらったら度数はなんと36度。どおりで酒臭いわけだ。

「おっちゃん、今日はいつから酒飲んでるの?」

「たぶん3時くらいからだな!いつも通りのことだ!はは!」

さすがキューバのおっちゃん!陽気でノリノリで人生サイコー感が全身から漲っている。ふつう年齢と共にはしゃぐ気持ちが減退していくものだけど、この国のおっちゃんは若者の心というか少年の心のまま楽しむ気持ちを忘れないといった印象を受ける。

そんな感じで気軽な会話を少し続けていると、急におっちゃんが思い出したかのように言った。

「あー、明日はあれだな、広島原爆の日だな」

「え???」

ぼくはすごくびっくりした。もちろん忘ていたわけではないけど、キューバという異国にいたからかそこまで意識することのなかった。それをキューバ人のしかもホロ酔いのおっちゃんから思い出させられたのだ。

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キューバという国の教育水準の高さを思い出した

遠く離れた日本のことをなぜ当たり前のように知っていたのだろうか。これは、このおっちゃんだけのことなのだろうか。ぼくはとても疑問に思ったので尋ねてみた。

「キューバ人なら当たり前のように知ってることだ。子供の頃に教わるからね」

そうだった。この国の人々は誰もが教育を受けているのだった。以前から本やネットから得ていた情報からそう知った。識字率で言えば日本と同じレベルのものであり、教育費はもちろんすべて無料である。それがキューバという国である。

広島原爆の日が分かるかどうかで教育のレベルなんてものは語れないが、日本人の中でもいつ原爆を落とされたのか答えられない人がいる中で、当たり前に知っているという感覚はやはりしっかりとした教育が行われている証拠ではないだろうか。

参考:「原爆投下の日、7割が不正解」 NHK調査は年月日を聞く方式だった

 

最初におっちゃんが絡んできた時は少しめんどくさい気持ちがあった。でも、この原爆についての言及や他の話を聞くかぎりこの人は議論が好きな人なんだと判断した。

だからここマレコンからアメリカのマイアミを目指す人たちをどう思うか尋ねてみた。

「そうだな、おれの友達も何人か海を渡ったよ、あいつら元気でやってるかなあ」

「おっちゃんは考えたことないの?アメリカへ行くことを」

「おれは一度もないね。ここで昼間から酒を飲みながら過ごせるだけで幸せだよ」

マイアミはハバナからの距離は約400km。50年以上も国交がなかったアメリカとの距離は思ったよりとても近い。

「キューバ人の中にはフィデル、ラウルの政策に疑問を持っている人はたくさんいるの?」

彼は柔らかな表情を変えることなくこう言った。

「そういう人も確かにいるだろうね、でもそれよりも多くの人がフィデルやラウルと共に今まで生きてきたから。日本でも国のトップを好きな人嫌いな人どちらもいるだろ?」

確かに日本では半分半分というかそれ以上だろうな。いつも政治家の不満ばかり言うのが当たり前だし。批判があったとしてもトップが変わることのないのがキューバという国で、それについて国民がどう思っているのかそこを知りたいと思ったけど、彼の言葉を聞く限りぼくには分からなかった。いずれにせよ、彼らが外国人の前でカストロ兄弟の悪口を言うことなんてありえないことだ。

おっちゃんとはその後もいろいろと話をした。そして、最後には「俺はいつもここで酒飲んでるからまたいつでも来いよ」と、とても明るい笑顔で言ってくれた。

この時以来おっちゃんと会うことはなかったけど、3年たった今でも彼との出会いが忘れられない。やはりキューバ人と話すことは最高に面白いしタメになることが多いと気づかせてくれる経験だった。

またキューバを訪れた時にぜひ会ってみたい人のひとりである。その時はあの紙カップのラム酒を一緒に飲んで政治なんかの話ではなく、おバカな話もたくさんしたいなと思う。

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